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大阪高等裁判所 昭和60年(行コ)43号 判決

京都市南区西九条東島町六〇番地一四

控訴人

小林勇

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市下京区間之町五条下ル大津町八番地

被控訴人

下京税務署長

平木正行

右指定代理人

高田敏明

足立孝和

山口忠芳

鈴木慶昭

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和五七年一月一九日付でそれぞれなした控訴人の昭和五三年分の所得税の総所得金額を二〇五万九、六四七円、同五四年分の所得税の総所得金額を四六〇万三、二八六円及び同五五年分の所得税の総所得金額を五三七万八、二四九円(裁決後の額)と更正した各処分のうち、昭和五三年分につき一四七万四三四円、同五四年分につき一三七万一、一〇三円、同五五年分につき二三六万一、〇三〇円を超える部分及びこれに対応する過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  控訴人の主張

推計課税が許容されるのは実額課税ができないという場合であり、実額課税ができないからといって、どのような推計方法でも許されるわけではない。推計による課税が適法とされるためには、推計の基礎数値が正確であることはいうまでもないが、さらに用いられた推計方法が妥当かつ合理的なものでなければならない。

控訴人のようなタイル工事業者は、単にタイルを仕入れてこれを販売するのではなく、仕入れたタイルに労務を附加させてタイル工事を行うものであるから、売上原価は、仕入金額のみならず、人件費、外注費によって構成されるとすることは当然のことであり、会計学的手法としても正鵠を得ているというべきである。したがって、本件の場合、同業者の正確な売上原価を求めるためには、単に仕入金額のみならず、人件費、外注費をも売上原価として売上原価率を求めるべきである。

前述したとおり、推計の方法は正確でなければならず、資料が不足しているからといって正しい推計方法を採らなくてもよいものではなく、被控訴人の手持資料の範囲内で推計をすればよいとの考え方は、税務当局の恣意的推計を許す結果となり、誤っている。

2  被控訴人の主張

控訴人は被控訴人の推計課税を非難することに終始し、自らの売上金額を明らかにせず、控訴人自身が推計の基礎にすべきであると主張する人件費、外注費に関しても、その数値及び証拠資料を明らかにしないのであって、被控訴人が従前から主張するとおり、控訴人自身の人件費、外注費には全く口を閉ざし、一切不明にしておいて、一方では売上原価は材料と人件費、外注費によって構成されるから、これらにより売上金額を推計すべきであるとの趣旨の主張をするものである。このような矛盾した主張は、課税逃れの目的を達しようとする強弁にほかならず、失当である。

三  証拠関係

1  控訴人

甲第一ないし三号証を提出し、原審における控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第一ないし四号証、第三四号証の成立は認めるが、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

2  被控訴人

乙第一ないし二八号証、第二九号証の一ないし三、第三〇号証の一、二、第三一号証の一ないし四、第三二、三三号証の各一ないし三、第三四、三五号証を提出し、原審証人園田孝幸の証言を援用し、甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当であると判断するものであって、その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

控訴人は、当審において、控訴人のようなタイル工事業者の売上原価は仕入金額、人件費及び外注費によって構成されるのが相当であると判示しながら、本件の場合、控訴人自身が人件費や外注費の実額を主張しないから、そのような計算方法を採ることは不可能であるとし、仕入金額をもって売上原価とするほかはないとした原審の判断には決定的な誤りがあると主張するが、所得の推計は、当該事案において得られた資料を基礎として実額に近似する所得を推測する算出方法であるからその性質上、絶対的な合理性を要求することはできず、一応の合理性が認められれば足りるものというべきであり、この場合、他に一応の合理性が認められる推計方法が存在し、この方法による方がより実額に近似することが証明される場合、少くともこれと課税庁の推計方法を比較してそのいずれがより合理的であるか、より実額に近似するかどうかが不明な場合であればともかく、そうでない限りは、その合理性を肯定しうるというべきであって、本件の場合、控訴人は売上原価の本質論に終始し、人件費、外注費の実額を主張、立証しないのであるから、被控訴人の推計方法による売上原価の額が実額に近似するかどうかを不明ならしめるには至らず、推計の合理性を欠くものということはできない。控訴人のこの点の主張は、採用しない。

二  以上の次第で、控訴人の本訴請求を失当として棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、行訴法第七条、民訴法三八四条、九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田坂友男 裁判官 阪井昱朗 裁判官 島田清次郎)

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